特集 福祉・介護分野における人材確保と職場定着

 福祉・介護分野の雇用情勢をめぐり、人手不足や離職率の高さ、処遇の低さを指摘する声は少なくない。
 平成19年度に「福祉人材確保指針」を見直して以降、さまざまな対策が講じられている一方で、失業者に対する雇用の受け皿としての期待も寄せられている。本号では、沖縄県社会福祉協議会(県社協)が行っている福祉・介護分野における人材確保と職場定着に向けた取り組みを紹介する。


雇用拡大と人材の安定的確保に期待
 少子高齢化の進行や失業者の増大といった社会背景を受け、需要の増大が見込まれる福祉サービス分野における雇用の拡大が期待されている。

 一方、質の高い人材の安定的確保と職場定着は福祉・介護分野において大きな命題となっている。人材難が続けば、組織内における理念や技術の継承が難しくなるだけでなく、運営基準を満たせないことによる利用定員の削減、男女比のアンバランスから同性介助が難しくなるなど、サービスの質への影響も懸念される。また、近年の介護保険制度や障害者自立支援法の見直しによる報酬改定では、人員配置への加算が設けられており、人材確保が事業収入にも直結するようになっている。このように、福祉・介護分野における人材の確保や職場への定着は福祉業界にとって急務であると言える。
 そこで、厚生労働省では、昨年10月に「介護職員処遇改善交付金制度」を創設し、職場内における処遇改善に乗り出した。
 県社協でも、沖縄県が展開する「みんなでグッジョブ運動」と連携して、県社協が運営する「福祉人材センター」における福祉の職業相談、職業紹介等に力を入れている。また、昨年度より、県から委託を受けて「福祉・介護人材マッチング支援事業」(以下、マッチング支援事業)をスタートさせている。


マッチング支援事業とは
  マッチング支援事業は、福祉・介護現場における人材不足解消や従事職員の定着率・資質の向上を図ることを目的とする事業である。
 事業の開始に伴い、県社協では5人の「キャリア支援専門員」(以下、専門員)を配置し、県内の福祉施設・団体・事業所等を訪問し、雇用に関するニーズや課題の把握を行う「巡回訪問」をはじめとする関連事業を展開している。また、雇用分野の専門家(アドバイザー)や関係機関と連携して必要な支援を行っている点も特徴である。



「ひと」に関する雇用サイクル
ドーナツ型図表
▲「ひと」に関する雇用サイクル イメージ
 マッチング支援事業では、就職を希望する者、人材を募集する事業所、職場で人材育成にあたる職員等それぞれに対し、総合的に支援を行っている。
 雇用に関係する「ひと」への支援を、①「募集」、②「面接」、③「採用」、④「入社」、⑤「就業」、⑥「退職」の6つのポイントに整理し、①から⑥までの循環を「ひと」に関する雇用サイクルとして捉え、それぞれの場面に適した支援を通じて、事業所や個人と一緒に課題解決を図っている。(イラスト参照)


具体的支援の実際
 巡回訪問では専門員が事業所で取り組まれている人材確保、職場定着、人材育成に関する現状や課題の聞き取りを行い、事業所側からの要請があれば、課題に対応する支援について検討を行う。このとき、専門員は一方的に指導する立場ではなく事業所側と一緒になって考えることで、事業所の主体性を尊重し、意識高揚を促すねらいがある。また、必要に応じてアドバイザーの助言を得ながら、独自の支援案を策定していく。
▲アドバイザーによる出前研修の一コマ
 こうしてできた支援計画をもとに専門相談や職員研修等を実施し、人材の募集から面接・採用、入社時の職員教育、就業後の実践的講習、さらには退職を未然に防止するための対策等の実施をサポートしていく。その後、支援の評価を行ったうえで新たなニーズがないか聞き取りを行うことで継続的支援を行っていく。そして、この一連のサイクルを通じて、事業所が自ら、職場内の環境改善を図り、有能な人材の確保、職場への定着、職員の資質向上が実践できるよう目指す。以上が、マッチング支援事業の支援内容である。


働きがいのある職場づくり
 新たな人材の掘り起こしと併せて、雇用している職員に長く継続して働いてもらうことも大切なポイントである。離職率を減らし職場への定着を促すためには職員の働く意欲の向上と、働きがいのある職場づくりが不可欠であると言われている。福祉・介護分野における離職の原因は「低賃金」にあると一般的に言われているが、それだけでなく、職場内の人間関係や、働く意欲の阻害に起因するケースも少なくない。福祉関係者、とりわけ社会福祉事業の経営者は積極的に職場の環境改善と、職員の意識高揚に取り組む必要がある。



組織力を高める視点も
  職場内の環境を整え、職員の意識高揚を図るには、組織(チーム)の持つ力を引き出す視点が大切である。なぜなら施設や事業所の福祉サービスは全て組織(チーム)を通じて提供されるからである。チーム内の職員一人ひとりが役割や責任等を自覚し、円滑な連携や協力関係を築くことができれば、チームはうまく機能し、職員もその能力を最大限に発揮することができる。
 また、一つの目標に向かってリーダーを中心にメンバー全員で協力、連携を図る過程では活発なコミュニケーションが交わされ、これにより風通しの良い組織風土が醸成される。
 さらに、意思疎通のとれた組織においては目指す経営理念を組織全体で共有できるほか、問題意識が高まり、日々の業務で気づいた改善点を組織全体に浸透させることも容易になる。
 こうして、職員一人ひとりがやりがいを感じ、働く意欲に満ちた職場となれば、結果として、人材の確保と職場への定着という課題もクリアされるものと期待される。


モデル事業 現地レポート~与勝の里(うるま市)
 うるま市にある与勝の里(長浜君子施設長)では、マッチング支援事業が行うメニューのひとつ「職場定着支援モデル事業」の指定を受けている。職員の定着率アップに向けた労働環境の改善および職員の資質向上を支援するため、職員研修会や先進地視察等を実施している。この日は北九州市社会福祉研究所の田中隆雄主席講師を迎え、「福祉現場における組織人として」と題した講話があり、職員40名あまりが参加した。(写真)
 その中で田中氏は「職員一人ひとりが組織のために『何ができるのか』を考え、自分の持ち味を生かして働くことで、職場や仕事が楽しくなり、その結果、利用者に良いサービスを提供することにつながる。」と述べ、職員の自律性が組織を強くすることを強調した。ユーモアを交えながら職員の「やる気」を刺激する田中氏の話に、参加した職員の表情が明るくなってくるのが伝わった。
 この事業に期待する効果について、長浜施設長は「職員の意識を高めることで、『気づき』を促したい。研修を報告だけで終わらせず、その成果をフィードバックして現場で生かせるような仕組みづくりが必要だと思う。利用者や家族から喜ばれるサービスを目指して職員全員が一つの方向性に視点を合わせることができたら。」と語り、モデル指定を契機にさらなる職員の資質向上を図りたい考えだ。今後も、モデル指定終了の今年度末まで継続的な支援が行われる。





(トップページ)

(次のページ)


福祉情報おきなわVol.133(2010.9.1)
編集発行 沖縄県社会福祉協議会  沖縄県共同募金会 沖縄県福祉人材センター
〒903-8603 那覇市首里石嶺町4-373-1 TEL098(887)2000 FAX098(887)2024



-ふれあいネットワーク-

〒903-8603 那覇市首里石嶺町4-373-1

社会福祉法人
沖縄県社会福祉協議会

Tel 098(887)2000  Fax 098(887)2024
Copyright(C)沖縄県社会福祉協議会
TOP MENU